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2005年12月24日 (土)

冬の一日に、奥播磨『恩』

12月も何時の間にやら後半に。クリスマスを過ぎればあっという間に年の瀬の雰囲気が押し寄せますね。ほんと早いなあ。この時期になると、なんか知らず知らずのうちに大切な時間がそれと気付かず流れ去っていくようで、時の流れを止めたい気分に駆られますね。街中の赤と青のイルミネーションもそれと気付かず通り過ぎる毎日で。そしてまたこの冬という季節は、私にとってかけがえの無い大切な友人のことを思い出す季節でもあります。

その友人とは、大学時代の部活の後輩。といっても彼女が途中で退部してしまった後は、会うのは年に一回程度。でもその時ばかりは何故か親友にも話さないような話ばかりをずっとしてました。これからの夢のこと、昔の思い出話、自分で勝手に思い描いている自分像などなど。お互いのことを「聞き出し上手だね~」なんていいながら、内緒にしてたわけじゃないけど自分でも気付かない心の隅の埃をはらってもらったり、大切な気付きを浮かび上がらせてもらったり。天真爛漫さの中に鋭すぎるぐらいの感受性を持つアンバランスな面もありましたが、そのガラスのような繊細さも含めて、出会う人誰からも愛された人でした。一年に一回のペースぐらいがお互いにとってもっともしっくり来る「間」のようなものでもあったとは思いますが、子供が年に一度のクリスマスや誕生日をワクワクして迎えるかのように、私にとっては大切な行事のようなものでした。

あれは忘れもしない、社会人一年目を迎えた冬の始まりの日。まさしく早朝と呼ぶ時間帯に部屋の電話が鳴り響き。ちょうどその前日に大寝坊をやらかして就業時間になってから先輩に電話で起こされるという大失態をやらかした私は「ヤベ、またやったか?!」と跳ね起きるように時計を見るとほっと一息。なんだまだこんな時間じゃないかよ・・・。ほっとして笑いながら電話に出ると相手はその後輩の彼女と親友だった子から。朝っぱらから泣いている。なんだよまた失恋でもしてメソメソしてんのか・・・しかし電話先からはいつもとは全く違う泣き声と嗚咽。ただならぬ雰囲気に、眠気も、寒さも、何もかもが吹き飛ぶぐらいの不安感に包まれる。電話先の泣き声からは、ようやく声を絞り出すかのように「なにがなんだか・・・よくわからないんですけど・・・」という言葉に続いたのは、その後輩の彼女の名前と、昨夜彼女が亡くなったという事実だった。自ら、命を絶って。

容姿も性格も育ってきた環境も、何もかもが人が羨むようなものであったけれども、それがここに彼女をとどまらせる理由にはならなかった。周りの私たちの存在を含めて。あれから7年という月日が経ち、いまでは日々悲しみに暮れるということは正直なく、毎日をそれなりに過ごしている。彼女が何故自ら命を絶ったのか、それは今でもわからないままだけれども、この冬の始まりを感じる度に彼女のことを思い出す。一緒に過ごしている時は、まさに夏の申し子のような気がしてたけど、やはり彼女を思い出すのはこの冬という季節になってしまいました。彼女と会っていた時は、お酒を良く呑みました。その頃はビールやカクテルやチューハイばかり。少し背伸びして、バーボンやウイスキーを。流行りものに弱い彼女は、きっと今なら焼酎を愛したかもしれない。いや、もう少し先を行きたがる彼女は、日本酒をグイグイいってたかなあ。そんな彼女を思い出しながら、奥播磨『恩』を開けました。大阪の友が送ってきてくれたこのお酒ですが、このお酒が来た時から、彼女のことを想いながら呑もうと決めてました。ちょうど、彼女がいなくなった時とほぼ重なるような時期に造られたこのお酒は、例えようの無い静けさと旨みが横たわっています。造り手の想いと、それを大切に貯蔵していたのでしょう。楽しい雰囲気の中ではグイグイとどこまでも呑ませるような、静かでいたい時は静寂な雰囲気でそこにいてくれるような。そんな呑み手の気分に合わせてくれるかのようなお酒です。こちらの気持ちを読んでくれるかのようなこのお酒は、まるでお前がここにいて話を聞いてくれているみたいじゃん。そう、どこまでも、果てしなく旨いお酒です。

しばらくは僕達の周りでも彼女の話題をどう取り扱ったらいいのか分からなかったけれど、あれから7年まるまると経ち、なんらかの集まりがあると今では自然に彼女の話題が出る。ほんとドジだったよね。かわいかったよね。困ったやつだったね。へたな嘘しかつけなかったよね。不器用のかたまりだったよね。そんな話をしている時、みんな笑っています。まさに目の前に彼女がいるときとなにも変わらないような話をしながら。みんなで、このお酒をこんど呑もう。彼女がいなくなった時間がこのお酒には横たわってるよという話をしながら、みんなで呑もう。笑いながら、呑みましょう。『恩』という言葉とともに、みんなの心の中に、彼女は生きていますから。

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コメント

友の死というものほど、心に衝撃を受けることは無いですね。私も中学、高校の連れが交通事故で無くなった知らせを聞いたときは現実かどうかもわからなくなったことがありました。しかし、のむりん様の言うとおり仲間内ではまだそいつは生きて一緒に仲良く酒を飲んでます。

投稿: an | 2005年12月24日 (土) 10時29分

 常日頃、のむりん様の文章力には驚かされますが、今回のは、参りました。へたな小説よりも、こころ打たれました。 人の死って、何なんですかね。私もそれで終わりじゃないって気がして・・・。ただ、時とともに薄れていっちゃうんですよね、それが寂しい事かどうかもわかりません。でも思い出に心は躍りますよね。 すいませんへたなコメントで。

投稿: 森井象 | 2005年12月25日 (日) 08時45分

anさん

奥播磨「恩」ほんとどうもありがとうございました。「恩」のお話を頂いた時にこのためにまずは呑もうと決めてました。味は旨みがほどよく寝かされた熟成感があって、老ね香はまったく感じません。

彼女は亡くなりましたが、今でもそこに彼女がいるような思いを抱くときがあります。きっと、そこにいてくれるんでしょうねえ。

森井象さん

こちらのブログもご無沙汰してましたが、コメントどうもありがとうございます。記憶が薄れていかねば、悲しみからも脱却できませんからこればかりはしょうがないのだと思います。ただ、うまくできているものでその後は良い思い出が残っております。願わくば、こうしたお酒を呑み交わしたかったなあと。それであの頃とはまた違った話をしてみたかったです。

投稿: のむりん | 2005年12月26日 (月) 01時06分

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