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2007年10月21日 (日)

日本酒の日、僕は丸尾さんと【中篇】

ということで、丸尾さんと同じ車中の人となりまして。

こうなれば、いろいろ聞いたろ!と、上昇気流に乗った気分でイケイケドンドンであります。
じゃあ、まずは気になる『凱陣』の中でもどんなお酒が熟成に向くのかなどお伺いしましょうかね・・・

コホン。えーと、じゃあ熟成についてお伺いしていいですか?
僕も『凱陣』の無濾過生原酒の燗酒が大好きです。
丸尾さんとしてはどんなお酒が熟成に向くと思われますか?

「そうだねえ、やっぱりある程度磨いたほうがいいと思うけどね。磨きでいえば50%ぐらい欲しいんじゃないかな」

ムム?以前、古酒がどっちゃり置いてあった酒屋さんと同じことをおっしゃるな・・・と思いつつ、70%ぐらいのヤツってどうです?と聞いてみる。

「味が乗るのが比較的早いよね。まあ雑味というか、そういうのも出ちゃう時もあるけどねえ」

ムム。これまたやはりその古酒どっちゃり酒屋さんと同じことを・・・

「それと、やはり一升瓶だね。四合瓶はどうも熟成するには向かないね。あ、あなたの持っている一合瓶はすぐに呑んだほうがいいよ」

おおう、さっき買った一合瓶のことですね。
でもそれってなんでなんですか?
・・・ああ、「経験則」ってやつですか。なるほど。ムムム。じゃあ、おいらの熟成中四合瓶はナルハヤで呑んで置こうかな・・・

それと、生酒の熟成についてはどう思われますか?
僕も実家の蔵には『凱陣』を何種類か置いてあるんですが、やはり常温熟成になります。

「うーん。さっき聞いた江戸時代の蔵だよね。蔵とはいっても、やはり外気のマイナス5度ぐらいにしかならないことって多いんだよね。だから、ひと夏越してから熟成させたほうが無難じゃないかな」

・・・うーん・・・なるほど。H18byは全て最初の夏をこの蔵で過ごさせちゃったんだけど・・・
ちなみに熟成における冷蔵庫の存在ってどう思います?

「いやぁ、やっぱり冷蔵庫があるんならそっちで熟成させたほうがいいよ」

あ、そうなんですか?凱陣といえば常温熟成の代名詞かと思ってましたが・・・でもなかなか個人では酒熟成専用冷蔵庫って難しいですよぉ。
え?それでも酒好きなら持てって?えーと、なかなか難しいなぁ・・・
あ、それと、これは是非聞きたかったんですが、熟成させたお酒の呑み頃って難しいですよね。
どうやったら呑み頃分かりますかね?
え?
同じものを12本買えと。そしてそれを毎年1本ずつ呑めと。
もしいっぱいお金があるならねって、いやそれもなかなか難しいですよ・・・
しかも『凱陣』は毎年何種類も米違いや磨き違いでお酒を出してるじゃないですか。
さすがにそれを全てダースで揃えるのを毎年なんてやれないですよ~
ハハハ、じゃないですよ~

などと、カーナビが高松に近付くのを横目で眺めつつ、必死でこの「シンデレラタイム」(とでもいうしかない)を満喫しようとしてたおいら。
そして後半になってくると、丸尾さんがいろいろとお話して下さる。
それはそれは「青い炎」のような、丸尾節。
熱い、熱い、丸尾節。
小さな蔵の生き残り方から農業問題までとどまる事無し・・・これはいわゆる丸尾節の無濾過生原の直汲。
それを丸尾さんの運転される車中でじっくりと頂きました。

ちなみに今まで僕が出会った杜氏さんなり蔵元さんって、僕のような一介の日本酒ファンと触れ合うときは、その酒造りに対する熱い魂なり気持ちを柔らかく包みつつ接して頂く方が多いな~という印象でした。
しかしいま隣りにいらっしゃる方は・・・少し違って、感じられる人柄「そのまんま」のイメージ。
言葉を選ぶでも無く、かといってぶっきらぼうを装おうでも無く、生身の熱さが直に伝わるような。
気持ちをまとう衣の薄い方だなあと思ったものでありまして。
ああ、多分この人は自ら「お愛想とか言うのは苦手でねぇ」などとさっきから言ってますが、同じくこの人にはお世辞とかおべんちゃらって絶対通じないんだろうなあと確信に近い思いを抱いたたわけでして。凱陣のこれが好きこれが苦手、ってのがあったらそれをぶつけるぐらいがちょうどよさそう。

そして先ほどのこちらからの質問が一段落しますと・・・丸尾節が少しずつ迸ってきます。

「あなたは実家が農家なんだよね?今年の米はどうだった?コシヒカリを作っているということは、早稲なんだからもう食べたでしょ?」

はい、正直今年は・・・天気も厳しくて例年に比べると味が少し落ちたなあと話をしてました。
五月は暑くて六月は曇りばかり、七月は雨が降り続いて八月のあの異常な暑さ。
とても米造りには難しい年だなあと祖母と叔母が言ってましたが。

「そうだよねえ。この異常気象が続いたら、もう西日本の平野部なんて米作れなくなるよね」

え?怖いことおっしゃいますね・・・
あれ、そういえば確か丸尾さんのところの神力は・・・

「そう、九州なんだけど去年は台風でやられちゃってね。だから造れなかった。
今年は台風被害はあまり出なかったけどどうなることやら。」

神力、造れないんですか?

「うーん、まだわからないんだよねぇ・・・」

味乗りのある酒米と凱陣の組合せはファンの多いところですが。

しばし、丸尾さん無言。
そしてしばらくしておもむろに口を開くと
「今でこそ純米酒だなんてみんな当たり前のように飲んでいるよね。
でもさ、このまま米が作れなくなったらどうなる?
この温暖化に農家の後継者不足。
またまた三増酒を造るしかないような時代だって来るかもしれない。そんなこと、想像したことは?」

え・・・あ、いやそこまで考えたことは無いです。
今は純米酒を造ろうとする酒蔵さんが多くなってきつつあって、日本酒を見直す機運が高まりつつあるのかなあなんて思ってたんですけど。

「うん、純米酒。いいよね。でも、本当に日本を見たときにどうだろう?
米は誰が造るの?農家だよね。でも、だんだん米作りが難しくなってきている。山田錦だって、もとは東北では育たないとされてきたけど、最近はそうでもない。
このまま行けば、北海道でも造られるかもしれない。」

・・・えーと・・・・ウムム・・・

「本当にこのままで行けば西日本の平地では米が造られなくなる。そんな時が来るかもしれない。まあ、もうその頃には日本酒を呑む人がいなくなっているかもしれないから、下手すると困らないような事態にならないともいえないけど・・・それはそれでもうどうなってるのって話だよね。そして今や三増酒はリキュール類としての扱いになったよね・・・
純米酒を造る、もちろんそれはそれでいいよ。
でも、本当に米が無くなって三増酒でも造るしかないってときのことを想像したことある?
いよいよ小さい蔵は立ち行かなくなるだろうね。
そうなったらもう、小さい蔵は潰れるだけです」

確かに去年は神力がダメでした。でもその他の米を使うことで凌ぎました。
でも、もしその他の米もダメだったら・・・
神力のように、大きな蔵から米を押えられることになるでしょう。
さっき蔵で聞いた「小さな蔵だから」「手造りの美味しさ」というのとはまた違った現実を知らされたわけでありまして。
しかししかし、いまや『凱陣』といえば引く手あまたの銘柄なわけで・・・という疑問が多分おいらの顔に出たのでしょう。

「これは、今だけの問題じゃないです。そして、うちだけの問題じゃないです。」
と。
「真剣に考えますよ。些細なことと思われることも。だってうちは小さな蔵ですから。真剣に考えざるを得ないんですよ」とキッパリと。
今までどこか美味しいお酒を呑んで浮かれていただけの自分を、少し地面に引っ張り返してくれたような言葉でした。

この熱さはまるで青い炎のように静かに音を立てるでもなく、しかし誰よりも燃え盛るようでして。
饒舌というわけでもなく、かといって寡黙というわけではないのですが、言葉のスピードも抑圧も車中の雰囲気を乱すことなく、スラリと話が続いていきます。

そしてその後も、ここに書ききれないほどのお酒の話やお酒を取り巻く話が溢れんばかりに。
自分の中でそれをすぐさま咀嚼しきれないもどかしさがありましたが、何も知らんヤツだなと思われても良いからもうここは真正面から向き合わせて頂こうと思う、そんな時間を過ごしておりました。

そしていよいよ高松の中心部まで来ると、丸尾さんが駅まで送って下さると言う。
しかしそれは申し訳ないので固辞、丸尾さんが行かれるところで下ろしてくだされば十分ですと。
そして車からお酒を運び終わり(おいらも少しお手伝い)、ホントにありがとうございましたとお礼。
あ~貴重なシンデレラタイムも終わってしまったがなんという貴重な体験!
夢か幻かってところですが、ホントお礼のしようもないってもんです・・・

じゃあ丸尾さん、今日は本当にいろいろ勉強させてもらいました。
ありがとうございました!
今年の造りもガンバって下さい!
自分の中でもこのひと時の時間の意味の重さもわからずに、でもまあ最後ぐらい綺麗にと颯爽と(見せようと)クルリと走り去ろうとしたその時。
改めて呼び止められまして。

・・・はい?
ええ、高松までは電車じゃなくて飛行機で来ました。
18時35分発のJALです。
エエ、それまでは適当に時間つぶしてますから。
さっき教わった酒屋さんにでも行ってみようかなあなんて思ってますけど。
この後の予定ですか?いや、特にはないですよ。

・・・え?
一緒に「さぬきよいまい」の田んぼを見に行かないかって?
い・・・いいんすか!?

行きます行きますいかせてくださいと脱ぎかけたシンデレラの衣装を慌ただしく着るようにまたまた再び座席に着かせて頂く。

フロントガラスの向こう側には見渡す一面稲がフサフサしてるようにみえたのは錯覚でしたでしょうか。

そして、この物語はもうちょっとだけ、続くのです・・・

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コメント

いいなぁ・・オイラなんて丸尾さんには会えなかったもん。酒屋さんって高松?もしそうならたぶん熱い酒屋さんですよ。よし!お金貯めてみんなで凱陣ダース買いします?(笑

投稿: 武 | 2007年10月21日 (日) 09時36分

凱陣ダース買いは出来ても熟成させられる冷蔵庫も蔵も場所もありません!!ダース買い出来る???(奥方の)お許しがでませんよね!後篇も楽しみにお待ちします。

投稿: shigeshige | 2007年10月21日 (日) 12時44分

そのへんの日本酒取り上げてる雑誌なんかより遥かに中身の濃いことが書いてありますね。
しかし凄い経験してますね!

投稿: 弁慶 | 2007年10月21日 (日) 21時46分

武さん

うん、その酒屋さん行きたいの。
やはり凱陣も4割は地元消費らしいですからね、量が出ているのは地元みたいでした。
香川にはまたいくぞー!

投稿: のむりん | 2007年10月21日 (日) 22時10分

shigeshigeさん

えー、ダース買いはできませんよねえ。。。

でも、山廃雄町だったらもう少しまとめ買いしても良いのかも・・・
でも、欲しいのがたくさんあって、正直なかなか一本に絞りきれないです。

投稿: のむりん | 2007年10月21日 (日) 22時11分

弁慶さん

そうですねえ、でもこれでも結構「濾過」かけてるんですけどね・・・

すごい濃厚でありました。
コッソリ、このときのことはもっと詳細なメモ書き留めておいてあります。
一生の宝物であります。

投稿: のむりん | 2007年10月21日 (日) 22時13分

そうそう、静かにサラリというけど、
とっても言葉に重みを感じるんです。。。
心に直接響いてくるような。
「小さいからこそ真剣に」と、口先だけ言ってるんじゃなくて、しかも「ウチのことだけ真剣に」じゃなくて「この業界のことを考えている」っていう感じがしました~。
またお話したいなぁ。

投稿: まき子 | 2007年10月22日 (月) 13時20分

まき子さん

そうそう、ほんとそんな感じでありました。
なんつ~か、青い炎のように静かでしかしビンビンに熱かったです。

おいらもまた会いたいです・・・

投稿: のむりん | 2007年10月23日 (火) 08時30分

こんな文章書かれたら、凱陣もまさに悦びー
ってかんじっすね。

投稿: こーたぱぱ | 2007年10月23日 (火) 13時59分

すっごい大事な話ですね。
確かに今の米作りの状況は芳しくないだろうし、米がなくなったら・・・・なんて考えたこと無かったです。
そうなると純米酒が無くなる、もしくは中国製の米で作る・・・・
それじゃ日本酒じゃなくなる。
うゎ、えらいこと聞いてしまったな。でも俺が死ぬまでは大丈夫かな?

投稿: an | 2007年10月23日 (火) 16時01分

こーたぱぱさん

そんな誉~な言葉、もったいないです。

しかし、丸尾さんの言葉を大海原に例えるなら、僕が書くことが出来たのは照れば消えゆく水溜りみたいなもんでして。
これ正直な所です。。。

投稿: のむりん | 2007年10月24日 (水) 11時48分

anさん

そうなんですよ、結構びっくりしたんですが、ありえない話じゃないよな・・・と。
本当はこの出来事を書くかどうか迷ってたんですが、「ここで言われたことこそ書くべきかなあ」と思った次第なんです。
地球温暖化と日本酒。
密接に繋がる問題なんだなあと・・・

投稿: のむりん | 2007年10月24日 (水) 11時51分

う〜ん、丸尾さんの言葉と、のむりんさんの感性がハーモニーを奏でている文章ですね。
感動しました。そして、考えさせられました。

投稿: 地酒星人 | 2007年10月30日 (火) 21時44分

地酒星人さん

実際に米造りではシャレにならんような状況に一部はなりつつあるようですね・・・
特に西日本は。
美味しい純米酒が贅沢品にならぬよう、少しは僕たちも考えねばならないのかも。

投稿: のむりん | 2007年10月31日 (水) 17時55分

続きはまだでしょうか?楽しみに待っております。

投稿: 池の鶴 | 2007年11月 3日 (土) 00時32分

池の鶴さん

わーー!
本日UPであります!
楽しみに待って頂いて、心から感謝感謝であります。

投稿: のむりん | 2007年11月 3日 (土) 01時08分

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