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2007年11月 3日 (土)

日本酒の日、僕は丸尾さんと【後篇】

そういうわけで、またもや丸尾さんと同じ車中の人となりまして一路『さぬきよいまい』の田んぼへ。

「私の住まいは香川の西なんだけど、『さぬきよいまい』の田んぼは東にあるんだよね。」

と、カーナビの地図を指し示しながらこれから行く場所を教えてくれる。
丸尾さん曰く、同じ香川県といえどあまりこの付近には来ないらしくて、来たとしても年に1~2回なんだとか。

「だから今日はもともと行こうと思ってたんですよ。」

おー、そうなんですか!それはラッキーだったなあ。
あ、でもこの発言は、隣で恐縮してしまっているおいらにかけてくれた優しい言葉なんではないかなあとも思えるのでありますが・・・
モトモトとワザワザの間に恐縮の想いは揺れちまいます。

あれ、そういえばカーナビの地図上に飛行機マークが見えますね。

「そう。空港は田んぼから近いところだから。」

だから空港まで送りますよ、と丸尾さん。
丸尾さんと『さぬきよいまい』の稲を見て、その後はわざわざ空港まで送ってもらえるとな。
なんというすごいドライブ。
なんかもう冷や汗が出できますね・・・

さて、しばし車を走らせて、さあいよいよ『さぬきよいまい』がワサワサとしているトコロに・・・と思いきや。
もうだいぶその辺一帯では稲刈りをしちゃった後みたいで、なかなか肝心の『さぬきよいまい』が見当たらないのです。
グルグルとその付近一帯を車で廻るのではありますが・・・
ムム~。
あ!あの背丈が低い苗のようなものはなんですか?

「あれは黒豆ですね。」

え、黒豆ってこんな風に出来るんですか?
へ~、知らなかった。これは香川の名物なんですか?
と無邪気に尋ねますと丸尾さんはいささか表情が暗い。

「減反なんだよね。つまり。」

ああ・・・。
先程の、将来もしかすると純米酒が造れなくなる時代が来るのかもという話が蘇ります。
減反はあれど稲穂は見えぬ、そんなちょいと暗い影が車中に差しかかったところ・・・
ヌナ?丸尾さん、あの先にあるフサフサは?!

「あ。あったね。あれだあれだ。」

ハンドルをギュギュンときって、数反だけ黄金色に光輝くそのエリアに向います。
立て掛けてある札にも・・・確かに『さぬきよいまい』であること、そして生産者の方のお名前も記載してある。
車から降りて、2人で稲を見る。
こりゃあ去年より色が良いなあ、と隣では丸尾さんが嬉しそうに独りごちております。
おお!今年の凱陣の「KU」は更に期待大か!?

「あなたはどう見ます?この米は。」

え~と詳しいことはよくわからないんですけど、稲の背丈はわりと低いんですね。
穂の先はまだちょっとだけ緑がかってますから、刈るまであと数日から一週間ぐらいかかるでしょうか?071001_1539012

「う~んそんなところかねぇ。」

と、こちらを見ることなくずっと稲を掌に置いて見つめている丸尾さん。
背丈が低いのはオオセトから来ているんだろうね、ほら、穂の先にヒゲが出てるでしょ?これも山田錦にはないよね。
なんてことを教わりながら、僕はここにいる。
ワサワサと風に揺らぐ黄金色の稲穂。
この米が今年どんな酒になってくれるんだろう。
ああ、この風景もこの瞬間のことも絶対に忘れないですよおいら。

どれだけ2人でそこにいたことでしょうか。
名残惜しくここを去り空港に向かうわけですが、あとわずかに残された時間に米の事をもっともっと聞きたいという思いを強くしまして。

『さぬきよいまい』は昨年初めて使いましたよね。他の米と比べるとどういう印象なんですか?

「まだわからないね。特性とかを掴むのはこれからだなあ。」

だから去年は70%まで磨いたものだけなんだ、とは丸尾さんの弁。
しかし、そこでまた表情が陰る。

「ただね、このお米が出てきた代わりに、農家の人がオオセトを作らなくなったんだよね。」

な・・・なんですと!?
オオセトといえば味がタップリと乗って、凱陣の純米無濾過生原酒の中でもリーズナブルで火入れの純米酒やら本醸造などでも使われてるお米じゃないですか。
ただ、やはり農家の数も限られている現状の中で、新しい米を造れば必然的に減る米があるわけで。
県も力を入れてこの『さぬきよいまい』をこれから押そうとしていますし・・・
いろいろと事情はあるのでしょうけれども、これから『凱陣』の火入れの純米酒や本醸造などの米が変わるかもしれないとしたら一大事じゃないですか?

「うーん。ありえない、とは言えないよねえ。」

と、どこまでも冷静な様子は崩さないけれども、やはり丸尾さんも気がかりな様子で。
しかし、オオセトの純米無濾過生原酒のファンは多いですぞ、丸尾さん。

「オオセトの複雑味がね。これがタマランという方は多いでしょうねぇ。」

そうそう!タマランのですよ。
しかししかし・・・ウムム。
単純に丸尾さんと『さぬきよいまい』の田んぼを見に来れたなどと浮かれてはいられなくなってきましたね・・・
丸尾さん、もっと米を!もっと米のことを教えてくださいよ。

「雄町。あなたはこの雄町が一番好きだとおっしゃってましたね。」

はい、讃州もいいですが、赤磐雄町。この山廃の赤磐がたまらなくいいです。
H18BYでは讃州を称える声も多いですが、個人的には赤磐の方がタマランと思ってます。

「味は赤磐の方が出るよね。讃州に比べてね。
ただ、あともう少し。あともう少し酸が出てくれればなあと。」

おお。
凱陣の中でも旨み最強とも思える赤磐雄町を更に呑み応えを強くしたものとな。
ああ、是非呑みたい。(おいらだけではないでしょう)
あ、山田錦はどうでしょう?凱陣といえば、兵庫のものと阿波のがありますよね。

「『燕石』には兵庫のものを、東京の人にファンが多い無濾過生原酒には阿波のを使ってますね。」

やはり違うものなんですか?

「やはり産地が違うと味に違いが出てきますね。
兵庫のはね・・・削ったときに・・・なんというか、ツラが綺麗でね。
透き通った感じになるんです。」

これが大吟醸クラスを造る時に活きるのだと言う。

「阿波の山田錦も本当によく農家の方が頑張って造ってくれてます。」

コアな凱陣ファン向けのお酒にはこの『阿波山田錦』がまたイイ。
ただ、この山田錦が育った土地は兵庫だからね。
兵庫の『土』がそもそも山田錦に合っているという面は否めないよね、と丸尾さん。

だんだんこちらもまた『丸尾節』のエンジンがかかって来てます。
これは・・・そう、赤い。先ほどの経営者としての顔ではなく、杜氏としての熱さ。
それは「赤い炎」のようでありまして。
先ほどの静かに燃える青い炎とは違って、メラメラと熱い!
そして隣にいるこちらはその火照るような熱さを体と気持ちの全部で受け止めることだけを考える。
今日はほんとすごい一日だよなあ、と頭の片隅で思っているうちに、いよいよ車は高松空港に近づいていくわけでありまして。
ああもうちょっとこの熱さを受けていたいなあ思う気持ちといやいや満足せにゃ罰が当たりますよと思う気持ちがまたまた交錯。
すると、丸尾さん。

「飛行機の時間、まだまだあと2時間もありますね。じゃあ、そこでコーヒーでも呑んでいきましょうか」

と、道中にあった喫茶店の駐車場の中に車を向けてくれまして。
ええ!いや申し訳ないですよどうぞお気遣いなく空港でプラプラしてますから~と言うも、いやいや家でもこの時間にいつもコーヒーを飲んでますからと。
いやあ、やはり相当気を使わせてしまって・・・恐縮至極デアリマス。

店内に入りますと、初めて?向かい合いましていろいろとお話をして頂きました。
当然、まずは米の話の続き!

「やはり『フッコマイ』に興味がありますよね。」

フッコマイ?ハテ?

「『復古米』です。」

おおぅ(無知なおいらよ)、昔造られていたけど一度米造りが途絶えてまた復活した米のことですね。

「西の代表的なものなら、『神力』『強力』などが有名だね。東なら『亀の尾』でしょ。
これらを酒にすると、西のは『味が乗る』という感じになるよね。
東のは味が乗りつつもやはり比較的『淡麗』な味わいになるよね。」

米はその土地、つまり土と水と密接な関係があるから面白いよねぇと。
さっきの山田錦の話もそうでしたよね。
うう、この喫茶店でも赤い炎は健在だぞ・・・
その後も、本当にいろいろ話をしてくれまして。

「うちはマニアックな酒屋ですから。マニアックな酒呑みの方に呑んでもらえればいい。そう思って、酒造りをしてます」

「あなたは茨城出身だよね。でもやはり茨城の人は淡麗な酒が好きなんじゃないかな。栃木もそうだろうね。
埼玉もそうと言いたいけど、でもあそこにはやっぱり『神亀』があるからねぇ。ひとくくりにしちゃいけないかなあ」

「●×は本当にすごい呑み応えだよね。ある意味で凱陣以上にマニアックな酒じゃないかと思うよ」

「いまはあらゆる世界で低価格の競争がはびこりすぎている。何事にも適正価格というものが本来あるべき。日本酒も同様ですよ。」

「酒ブームもいろんなのがあった。でも、焼酎のブームの後にこれというものがないね。もうあさり尽したかな。
日本酒も吟醸酒特集やらうちのような小さい蔵などを扱ってきたけど、もうそろそろネタ切れかなあ。
え?白ワインはどうかって?
うーん、美味しいワインは本当にいいもんだけどねえ。ブームになりえるかどうか」

「TVの『情熱大陸』の村さんの特集見た?あのスズキは旨いよぉ。2週間寝かせた刺身を食べたことがあったけどねえ。ほんと旨かった。」

その他にも、『凱陣』という酒を理解して取り扱ってくれる酒販店さんについて、5~10年後の凱陣の造りについて、手造りの酒ってつまりは何?について、そして少しだけご家族のことについてなどなど・・・
赤い炎と青い炎、そしてちょっとオレンジがかったような温かい炎の全てが入り混じる、なんだかもうすごいことに。
喫茶店でも僕らは相当浮いていたに違いない。
でも、こんでもかってぐらい浮けることって、幸せ以外の何ものでもないのです。

そしていよいよ空港まで送って頂いてお別れするその時まで、本当にいろんな話をして頂いて。
今度香川に来るときは●▲のツアーがいいぞ2万円台で東京から来れますよとか、雑誌「DANCYU」の酒特集についてとか。
この時はまだ明らかになっていない日産GT-Rはどんなデザインなんだろうとか(ああやはり車好きなんですね)、もう書ききれないほどで。
空港に着いた時には「名残惜しい」という気持ちは何故か微塵も無くなっていて、何かもう『満たされた』想いで一杯でありました。

が、帰りしな、ふと漏らされた丸尾さんの一言。

「うちは急なことでは蔵の中とかは見せられないからなあ。今日はすみませんねえ。」

と。
あわわ・・・そんなつもりではなかったのですが、やはり蔵に突然訪問して戸惑われたかなあと大きく反省であります。
酒好きとしては、マナーを守らないといけないですね。
丸尾さん、本日は1日どうもすいませんでした。
しかし、なによりなによりも!ほんとありがとうございました!

空港まで送って頂いて丸尾さんをお見送りした後、これは夢じゃないんかいとホッペをつねりながら気づいたことがありまして。
これだけ一緒にいたのに、そういえばおいらの名前は一度も丸尾さんに告げていなかったと。
確か蔵に行ったときには「東京から来た凱陣ファン」と名乗っただけでしたし・・・トホホ。

その後は脱力感甚だしく、空港で買ったお土産は全て東京の電車の中で無くすしで散々でしたけど、それにしてもスゴイ一日を過ごせたなあと改めて思うのです。

ようやくですが、本日丸尾さんにお礼のハガキを書きました。
このあまりの出来事をどうやって咀嚼出来るものかと思いましたが、こうしてブログに書いたりそれに皆さんからコメントを頂くことでずいぶんと気持ちの整理も出来ました。
丸尾さんには心から感謝とこれからの呑み手の決意といっては大げさだけど、ちょっとだけそんな言葉を書きまして。
このブログを読んで頂いたりコメントを頂きました方には、改めてお礼を申し上げます。

今年は11月1日から蔵入りしますということでしたから、H19byもいよいよ始動でしょうか。
今日は自宅で熟成中の凱陣をジッと見つめるだけでそれなりの時間を過ごし、その後に開封中の凱陣を呑んで時間をまた過ごし。
ありがとう、ありがとう、ありがとう。
誰に言うわけでもなく、この時のことを思い出しながら呑む凱陣は、またちょっとだけ今までと違う味わい深さでありまして。

今宵ばかりは少しだけ、『凱陣』のその味わい深さに溺れちゃいそうな夜を、こっそりと過ごしております。

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